個人の株式への投資が活発になってきました。日本経済の先行きを見ての動きと思われますが99年度の上期(4―9月)の売買代金に占める個人の割合は全体の約3割となり半期ベースで92年度上期以来7年ぶりの高水準になったようです。
 ところで、個人が株式を売却した場合の売却益に対する課税が2001年4月から大きく変わります。株を売買している人にとっては大きな影響が発生します。新税制の概要、税額負担への影響、株主の手続き等みていきたいと思います。

1.概要

 平成11年4月に有価証券取引税が廃止された際に、株式譲渡の課税方法の一つである源泉分離課税方式は廃止されることに決定しました。現行制度上、個人の株式譲渡損益については「申告分離課税」と「源泉分離課税」のいずれかを選択することができますが2001年4月以降の譲渡については申告分離課税方式に一本化されることになりました。

源泉分離課税方式とは

 源泉分離課税は株式の売却額の5.25%を利益とみなし、この20%を所得税として証券会社が天引きして納税する仕組みです。この方式によると、売却の都度株式売却代金の1.05%(5.25%× 20%)を所得税として天引きされるだけで課税が完了します。売却損が出たとしても売却額の1.05%を天引きされるという株主にとって不利な点もありますが面倒な手続きが不要なことや、売却益が出た場合の税金面での有利さから、源泉分離課税が多く選択されているのが現状です。

申告分離課税とは

 申告分離課税になると個人投資家は1年分の株式売買による利益と損失を自ら通算し、利益がでていれば税務署に申告し納税しなければなりません。売却益に対する税率は、所得税が20%、住民税が6%になっています。

株式売却益に対する課税

現在の制度【選択制】
●源泉分離課税方式
売却額の1.05%を証券会社が天引きして納付
●申告分離課税方式
年間の譲渡所得を計算して20%の所得税と6%の地方税を納付

2001年4月以降申告分離課税に一本化

2.申告分離課税の譲渡所得の計算方法

 申告分離課税による株式の譲渡所得の計算は次のようになります。

 売却額−取得価額−経費=譲渡所得

 経費として引けるものは売買委託手数料や、借入金で株式を購入した場合の利息などです。ここでやっかいなのは源泉分離課税の場合問題にならなかった『取得価額』です。古くから持っている株式や相続で引き継いだ株式については取得日が不明であるため、取得価額がわからない場合が少なくありません。
 そのような場合「概算取得費」といって、売却額の5%を取得価額とみなしてもいいことになっています。また、1952年以前に取得されたものであれば1952年12月中の月中平均株価を取得原価とすることができるという措置を設けています。しかし、「概算取得費」を採用すると譲渡所得が高めに計算されるため、株を売却する人にとって多額の税金を納付することとなり不利になることが多くなります。

(例)買値不明の株式1万株を千円で売却した場合(売却額1千万円)の税負担の差を試算すると、これだけの差になります。

 源泉分離課税の場合 1千万円×1.05%=105,000円
 申告分離課税の場合 {1千万円―(1千万円×5%)}×26%=2,470,000円
 ※「概算取得費」5%を採用、売買委託手数料などは考慮しないとする

3.取得費の不明な場合

 それでは古くから持っている株式や相続で引き継いだ株式について取得日が不明であるため、取得価額の特定が困難な場合どうしたらよいでしょうか。
 証券会社の売買報告書など、いくらで買ったかを証明する書類が見当たらない場合は早めに準備する必要がありそうです。証券会社には記録が保管されていることがありますからまず相談してみましょう。
 売買報告書がなくても取得時期を証明できる手がかりをなんとか探した方がいいでしょう。株式の購入代金を払った際の預金通帳の記録なども手がかりになります。日記やメモなどで購入時期が明白に示せるのならば、当時の新聞の縮刷版から相場表をコピーする手もあります。
 国税庁では「株主として登録した日(名義変更した日)」を取得日とみなしてその日の終値を取得原価とすることを認める方向で検討がなされています。
 また、長期間保有していたり相続を受けたりして買い値をどうしても証明できない場合には、源泉分離課税が選べるうちに売却するのも1つの方法と考えられます。

4.手続き

 税務署から「分離課税用の申告書」を取り寄せ売却の取引ごとに売り値から買い値や証券会社に支払った売買委託手数料、消費税、さらには電話代などを差し引いて譲渡所得を計算します。借り入れ金で株式を購入した場合は、利息も経費として控除します。 年に1つか2つの銘柄を売買した程度ならば手間はさほどかかりませんが、例えば3回に分けて買った銘柄の半分を売却したなどのケースでは、取得原価は総平均法で算出しなければなりません。購入後に株主割当増資や株式分割があった場合は、買い値を正確に修正する必要があります。
 今までは、源泉分離課税方式を選択しておけば、確定申告のことなど気にせず売却できましたがこれからは譲渡益をにらみ、税金を気にしながら売却するということになります。個人投資家は株式売買記録をすべて保管し、自分で確定申告をしなければなりません。長期間保有していて取得原価がわからない場合は多額納税を強いられる可能性もあります。「概算取得費」の計算方法の修正などを要望する動きもあるようですが、いずれにしても、買い値を証明できる書類を早めに用意するなど、今から準備を心がけていた方が良いでしょう。