税務トピックス No.53

10月スタートの株式新税制

株価がバブル崩壊以後最安値を更新し、証券税制の早期見直しに関する記事が毎日紙上をにぎわせている中、10月1日から株式譲渡益に対する新しい課税制度がスタートすることになりました。制度を利用するには、株式を保有した期間、売却する時期など、さまざまな要件を満たす必要があり、制度の正確な理解が求められます。
新しい証券税制はいままでの税制とどう異なるのか、また、その仕組みはどうなっているのか見ていきます。

1.今回の株式新税制の概要

1年以上保有していた株などを売却した場合、利益が年間100万円までなら税金がかからない

今回の改正は、今春にまとめられた緊急経済対策の中で、個人の株式投資を促そうと打ち出した政策のひとつで6月の国会で成立したものです。
欧米では個人投資家が株式を売却したときには、一定額以内の利益に対する優遇税制があるのですが、日本にはないだけに期待されるところです。しかし、適用を受けるためには一定の要件を満たさなくてはならないので注意が必要です。

2.上場株式等の譲渡益課税のしくみ

株式を売却する際には、取引ごとに申告分離課税方式か源泉分離課税方式か、いずれかを選択することができます。税額計算方法は次のとおりです。

申告分離課税の税額    (売却額−取得価額・手数料など)<売却益>×26%<税率>
源泉分離課税の税額    売却額×1.05%

申告分離課税を選択した場合の譲渡所得については、他の所得と区分して所得税20%・住民税6%の課税が行われます。譲渡所得の計算で生じた損失は、他の株式の譲渡所得から控除することはできますが、土地や建物など他の資産についての譲渡所得や給与所得等との損益通算はできないこととされています。
一方、源泉分離課税の特例では、売却額の5.25%を譲渡益とみなして20%の源泉徴収が行われます。つまり売却額の1.05%(=5.25%×20%)が所得税として天引きされます。この天引きだけで課税関係は終了するため確定申告する必要はなく、住民税もかかりません。ただし、損失があっても売却額に対して税金がかかります。この特例は2003年3月31日まで適用され、以降は申告分離課税に一本化されることになっています。

3.株式新税制のしくみ

今回の改正により、2001年10月1日から2003年3月31日までの間(特定期間内)に保有期間1年超の上場株式などを売却し「申告分離課税」を選択した場合に、譲渡所得金額から100万円を特別控除としてマイナスすることができるようになりました。

【保有期間1年超の上場株式などを売却した場合】(2003年3月31日まで)

従来  銘柄ごとにいずれかを選択できる
申告分離課税   {売却額−(取得価額・手数料など)}<売却益>×26%<税率>
源泉分離課税    売却額×1.05% 
新税制 銘柄ごとにいずれかを選択できる
申告分離課税  {売却額−(取得価額・手数料など)<売却益>−100万円<特別控除>}×26%<税率>
源泉分離課税  売却額×1.05% (変更なし)  

*100万円の特別控除は1銘柄ごとに適用されるわけではありません。特定期間内に売却し、申告分離課税を選んだすべての取引について損益を通算した金額から100万円を控除します。

4.適用される金融商品 

対象は1年を超えて保有している上場株式などです。

国内の証券取引所に上場する株式のほか、店頭上場株(マザーズやナスダックジャパンも含む)も含まれます。新税制と同様、市場活性化策として導入が打ち出された株価指数に連動する上場投資信託(ETF)も対象になります。一方、転換社債や新株引き受け権付き社債には適用されません。ETFを除く投資信託も対象外です。

5.適用される期間 

新制度の適用期間は2001年10月1日から2003年3月31日までに売却した場合に限られています。

「売却した日」については、証券会社に売り注文を出して約定した日(約定日)か、売却代金を受け取る日(受け渡し日)のどちらでも構いません。
約定日を含めて4日目(休業日を除く)が受け渡し日です。今年9月26日に売り注文が成立し、10月1日が受け渡し日になる取引も適用対象期間です。同様に2003年3月31日に売り注文を出して、4月以降に受け渡しになる取引も適用対象になります。 

6.特別控除を受けるための手続き 

新制度の適用を受けるには必ず申告分離課税を選び、確定申告をしなければなりません。 

株の譲渡益から100万円を特別控除する新制度は申告分離課税を選択し、確定申告をしなければその特典は受けられません。
給与所得のみのサラリーマンや主婦などの場合、確定申告はめんどうと考えている人が多いと思われますが、面倒がらずに申告する姿勢が求められます。

7.申告分離か源泉分離かの選択

今までのように、売るときに買ったときより値下がりしていたら申告分離課税、利益が出ていたら源泉分離課税と単純にはいかなくなります。例えば200万円で購入した株式を1年以上保有し、300万円で売却した場合、下表のとおり、従来は源泉分離課税を選択したほうが有利でしたが、新制度では申告分離課税を選択した方が有利になります。


購入→売却 源泉分離課税 申告分離課税
従来 200万円→300万円 売却額×1.05% =31,500円 売却益×26% =260,000円

新制度
売却額×1.05%=31,500円 (売却益−100万円)×26%=0円

8.これからの証券税制の行方

当面10月1日からはこのような形で新たな証券税制がスタートするわけですが、株価が低迷していることから、さらに証券税制を見直していこうと次のようなさまざまな案が出ています。

 
・申告分離課税に一本化する時期を1年前倒しした上で、申告分離課税の現行税率26%を引き下げて、10〜20%とする案。
・個人が株式取引でこうむった譲渡損失(売却損失)を翌年以降に繰り越して、株売却益と相殺し、課税所得を圧縮できる制度の導入。
・高齢者の豊富な金融資産を証券市場に呼び込むため、親子間などで株式取得資金を贈与した場合の税負担を軽くする措置の導入。

株価が下落基調にあり、将来の見通しも不透明なときに証券税制を変更しただけで、個人投資家が株式投資を行い、株価が回復するとは考えられません。株式市場自体が投資家にとって魅力のあるものになることがまず必要です。
しかし、こうした証券税制の見直しにより、リスクをとって証券市場にお金を投資する個人投資家のために使い勝手の良い納税制度を整備しておくことが、株式市場に個人投資家を呼び込むためには必要であると考えられます。

(2001年9月)