税務トピックス No.51
贈与税の改正点 2001年度税制改正2001
年度の税制改正で、贈与税の大幅な改正がありました。贈与税の基礎控除額の引き上げと子供が住宅を取得する場合に親などから贈与を受けた時の住宅取得資金贈与の特例制度の拡充の2点です。どのような改正となったのでしょうか。1.贈与税の基礎控除の引き上げ
贈与税の基礎控除額が、2001年1月1日以後の贈与から、110万円に引き上げられることに なりました。1年間に贈与された財産の額の合計額が110万円以下であれば贈与税が課税され ませんし、申告も必要ありません。 |
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1) 贈与税の基礎控除額の推移贈与税の基礎控除が改正になったのは約26年ぶりです。贈与税の基礎控除額は次のように上昇してきました。
昭和28年から昭和32年まで 10万円 昭和33年から昭和38年まで 20万円 昭和39年から昭和49年まで 40万円 昭和50年から現在まで 60万円 |
経済界などからは、以前からこの基礎控除の引き上げの声がありましたが、実現されませんでした。それは、この基礎控除は課税の便宜のために設けられた制度であり、資産家がこの枠を使って生前に贈与するために作られた制度ではないから、と説明されました。
しかし、今回の改正は高齢者から若年層への資産移転を容易にすることで個人消費の拡大を図ることがねらいの一つとなったという点で大きな改正といえます。
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2) 相続税対策への活用一般の贈与税額の計算は次のように行います。
( 贈与を受けた財産の価額−基礎控除額 ) × 税率 = 贈与税額 |
したがって、ある年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の価額の合計額が110万円以下であれば贈与税は課税されませんし、申告も必要ありません。
そこで、もし子供や配偶者や孫が5人いれば、1人110万円ずつ贈与すれば、1年間で550万円の財産を無税で生前に移転できることになります。この贈与を何年間か実行すれば、相当まとまった資産の生前移転が可能になります。資産を多く持っているため相続税が心配な方にとっては効果的な相続税対策になります。
【
基礎控除額の引き上げによる贈与税の負担の変化 】
贈与金額 |
改正前 |
改正後 |
60 万円 |
0 |
0 |
110 万円 |
5 万円 |
0 |
300 万円 |
30 .5万円 |
21 万円 |
550 万円 |
101 .5万円 |
84 .5万円 |
1000 万円 |
283 万円 |
260 .5万円 |
1500 万円 |
530 万円 |
505 万円 |
2.住宅取得資金贈与の特例制度の拡充
マイホームを取得するための親から子への支援を容易にする等の観点から、住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の特例が大幅に拡充されました。この改正は無理のない負担で持ち家取得を促進することを狙いとした改正です。
拡充の内容は次の
3点です。いずれも2001年1月1日以降の贈与から適用されます。
(1) 非課税限度額が 550万円に引き上げられる。 (2) 持ち家に対する一定の増改築に充てるための資金贈与も特例対象になる。 (3) 一定の住宅の買換えのための資金贈与も特例対象になる。 |
拡充の内容を一つづつ見ていきます。
(
1)非課税限度額の引き上げ
贈与税の基礎控除が引き上げられたことにより、父母や祖父母から住宅取得のための贈与 を受けた場合の非課税限度額は従来の300万円から550万円までに引き上げられました。 |
住宅取得資金贈与の特例の非課税限度額の引き上げは、贈与税の基礎控除額の引き上げに連動して行われるものです。この特例はいわゆる「5分5乗」方式による税額計算を行うもので、非課税限度額は「贈与税の基礎控除額」を5倍した金額とされています。したがって、今回の改正で贈与税の基礎控除額が60万円から110万円に引き上げられることから、特例の非課税限度額も110万円×5=550万円に引き上げられるということです。ただし、特例の適用限度額1,500万円には変更はありません。
住宅取得資金贈与の特例を適用した場合の税額は、次のように変わります。
贈与金額 |
一般の贈与税額 |
特例改正前 |
特例改正後 |
300 万円 |
21 万円 |
0 万円 |
0 万円 |
550 万円 |
84 .5万円 |
25 万円 |
0 万円 |
700 万円 |
136 .5万円 |
40 万円 |
15 万円 |
1000 万円 |
260 .5万円 |
70 万円 |
45 万円 |
1500 万円 |
505 万円 |
152 .5万円 |
105 万円 |
2000 万円 |
774 .5万円 |
318 万円 |
260 万円 |
(
2) 増改築のための資金贈与
これまで住宅取得資金贈与の特例は、新規の住宅取得の場合に限られていましたが、一 定の増改築のために父母又は祖父母から資金提供を受けた場合でも特例が適用される ことになりました。 |
一定の増改築とは次の要件を満たしていることが必要です。
@工事費用が1,000万円以上、または
A当該増改築による床面積の増加が50u以上
(
3) 買換えのための資金贈与
住宅取得資金贈与の特例は、本来、若年層などの住宅取得を促進するための措置として 設けられたもので、増改築と同様、買い換えた住宅については対象から除外されていま した。しかし今回の改正により、一定の買換えに係る資金贈与も特例の対象になりました。 |
一定の買換えの場合とは具体的には
「住宅取得資金を贈与により取得した日前5年以内に居住の用に供していたその人または配
偶者の所有する住宅を、その贈与の日の属する年の翌年12月31日までに売却する場合等に
おいて、その人の住宅の取得または新築の対価に充てるために受ける金銭の贈与」が対象にな
るということです。
3.改正後の住宅取得資金贈与の制度の概要
改正された住宅取得資金贈与の特例の要件を整理すると次のようになります。
特例を受けるための要件 |
@ 贈与を受けたときに日本国内に住所を有する人A 父母または祖父母からの贈与であること注意点 父母には配偶者の父母は含まれず、養子縁組みがされている場合の養父母は含 まれます。 B 贈与財産は自己居住用の家屋を新築・購入するための金銭であること。注意点 その 1:直接家屋の贈与を受けた場合は特例の対象になりません。 その 2:家屋の敷地の購入資金については、家屋といっしょに購入する場合に限っ て含めることができ、土地だけを購入する資金は対象になりません。 C 贈与を受けた年の合計所得金額が1,200万円以下であることD すでにこの特例を受けたことがない人 |
住宅に係る要件 |
@ 新築または購入する家屋は、日本国内にあり、登記簿面積が50u以上である家屋。A 購入する家屋が中古の場合、築後20年以内(耐火建築物の場合には25年)である家屋。B 贈与を受けた年の翌年3月15日までに取得家屋に住むことまたは住むことが確実であること。C 増改築の場合、工事費用が1,000万円以上または増改築による床面積の増加が50u以上であること D 次のいずれかを満たすことア 住宅取得資金を贈与により取得した日前5年以内に本人または配偶者の所有する住宅用 の家屋に居住したことがないこと イ 住宅取得資金を贈与により取得した日前5年以内に本人または配偶者の所有する住宅用 の家屋に居住していた場合には、その家屋について住宅取得資金を贈与により取得した日 の属する年の翌年12月31日までに売却または取壊し滅失すること。 |
4.景気刺激策としての今回の改正
今回の贈与税の改正は、基礎控除額を引き上げ、住宅取得資金贈与の特例を拡充することで、資産の保有が集中している高齢者から若年・中年世代への早期の資産移転を容易にすること等がその目的となっています。その背景には個人消費を拡大させ、建設投資を活発化させることにより、低迷する日本経済を回復に導こうとする景気刺激のねらいがあったといえます。
( 2001年4月)