税務トピックス「住宅取得資金の贈与の特例」


 平成11年度の税制改正の中で住宅取得を促進し、景気浮揚を図るための税制改正が行われました。今回その中で住宅取得資金贈与の拡充が図られています。改正の概要、特例の要件や効果、特例を受けるための手続など取上げます。

1.住宅取得資金贈与の特例の概要

 個人から年間60万円を超える現金や不動産等の財産をもらった時には贈与税がかかります。ところが父母や祖父母から、『住宅取得資金』として現金の贈与を受けた場合には、従来1,000 万円までの部分については『5分5乗方式』という特別な計算方法が特例で設けられており、贈与税が軽減されました。その結果この特例を受けると、300万円までの住宅取得資金の贈与 につい ては贈与税がかかりませんし贈与額が300万円を超えても 無税にはなりませんが、一般の贈与に比べて税負担が軽減されます。これが住宅取得資金贈与の特例です。
 この制度は、若い世帯の人がマイホームを取得する際、親からの援助で容易に取得できるようにという趣旨で設けられました。また、多額の贈与が低税額で可能となりますので、相続税の生前対 策としても有効です。お互いの条件のそろった人にとっては有効な制度であり使わない手はありません。


2.平成11年度の税制改正

 今回平成11年度の税制改正で住宅取得促進を図ることにより低迷している景気を盛り上げようというねらいから、次の点が改正になり、この特例の拡充がなされました。

(1)適用期限の延長
平成11年12月31日までが適用期限とされていましたが、平成12年12月31日まで1年間延長されました。
(2)特例の計算限度額
従来1,000万円までとされていたものが、1,500万円までに引き上げられました。
(3)適用対象となる住宅の床面積
240平方メートルが上限でしたが、この制限が撤廃されました。
(4)適用対象となる既存住宅の建築後経過年数
耐火建築物である場合は25年以内(現行20年以内)、耐火建築物以外の建築物である場合は20年以内(現行15年以内)に引き上げられました。
※ この改正は、平成11年1月1日以後に贈与により取得した住宅取得資金に係る贈与税について適用されます。

3.特例を受けるための要件

 この特例を受けるためには、次のすべての要件を満たしていることが必要です。
(1)贈与を受ける資産は、住宅用の家屋の取得に充てるための『金銭』であること直接家屋の贈与を受けた場合は、特例は受けられません。また、土地の対価に充てるときは、建売住宅である場合、 または建築条件付の土地購入資金である場合等に限定されているので注意が必要です。
(2)父母または祖父母からの贈与であること
 なお、配偶者の父母、または祖父母から贈与を受けたのでは、この特例は受けられないので、注意して下さい。(配偶者の父母等から配偶者が住宅取得資金の贈与を受け、配偶者がその住宅 の持分を持つなら話は別です。)養子縁組されている場合の養父母は含まれます。
(3)取得する住宅用の家屋の床面積(登記簿面積)は、50平方メートル以上であること。
(4)中古物件の場合
イ.その家屋が耐火建築物である場合は、その家屋取得の日以前25年以内に建築されたものであること。
ロ.その家屋が耐火建築物以外である場合は、その家屋取得の日以前20年以内に建築されたものであること。
(5)贈与を受ける人のその年の合計所得金額が1,200万円以下であること。
(6)贈与を受ける人は、贈与を受ける前5年以内に、本人またはその配偶者が所有していた住宅用の家屋に居住したことがないこと。
(7)住宅用の家屋は、床面積の2分の1以上に相当する部分がもっぱら居住の用に供されるものであること。
(8)原則として、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅用の家屋を新築または取得し、その住宅に居住すること。
(9)今までにこの特例の適用を受けたことがないこと。


4.特例を受けた場合の税負担軽減効果

 この特例を受けると、贈与額1,500万円までは、贈与額の5分の1に相当する金額をその年分の贈与を受けた財産額とみなして贈与税額をはじき、その贈与税額を5倍するという、いわゆる 『5分5乗方式』を採用して、税額が低くなるようになっています。例えば、1,500万円を住宅取得資金として贈与した場合

(例1)
1,500万円÷5−(基礎控除)60万円=(課税価格)240万円
(240万円×(税率)20%−17.5万円)×5=(贈与税額)152.5万円となります。
ちなみに、1,500万円の一般の贈与を受けた場合の贈与税額は
(1,500万円−60万円)×50%一190万円=530万円となり
特例を受けた場合377万5千円の税額軽減効果があります。
また、この計算の結果、300万円までの贈与については贈与税は課せられません。

(例2)贈与額300万円の場合
300万円÷5−(基礎控除)60万円=(課税価格)0円

【住宅取得資金贈与の特例を使った場合と一般の贈与の場合の贈与税額の比較】

住宅取得資金の贈与額 改正前の贈与税額 改正後の贈与税額 本来の贈与税額
100万円 0万円 0万円 4万円
300万円 0万円 0万円 30.5万円
600万円 30万円 30万円 119万円
800万円 50万円 50万円 196万円
1,000万円 70万円 70万円 283万円
1,200万円 111万円 97.5万円 380万円
1,500万円 212万円 152.5万円 530万円
2,000万円 436万円 318万円 802万円
3,000万円 968万円 814万円 1,374万円

 一般の贈与を受けた場合の贈与税負担のあまりに大きいことと、住宅取得資金の贈与の特例を受けた場合の税額軽減効果の大きいことがわかると思います。


5.特例を受けるための手続

 住宅取得資金贈与の特例を受けるときは、計算の結果、納付すべき税額がなくても贈与税の申告書を提出する必要があります。
 贈与税の申告は、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与につき、翌年の2月1日から3月15日までの間に、一定の書類を添付して行います。

【一定の書類】
 給与所得の源泉徴収票、戸籍謄本(抄本)、家屋の登記簿謄本(抄本)、住民票の写し、賃貸住宅に住んでいた人は賃貸契約書の写し、親の家に住んでいた人はその家屋の登記簿謄本など。  


6.その他注意しなくてはならない点

 この特例を受けた翌年以後4年以内に、一般の贈与を受けた場合には、その年の分の基礎控除額を先取りしているため、特別な計算方法で贈与税を計算するため、通常の税負担より大きくなる ので注意が必要です。
 また、贈与資金を「頭金」に使ってしまうとその翌年3月15日までに居住見込みでないと、この特例が使えなくなってうので(適用要件(8)参照)、贈与の時期には注意が必要です。 贈与資金は引渡時の残金に使うことにすれば安心です。